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あさぎり町ふるさと会 杉下 潤二
1.九州地溝帯橋 名古屋から球磨郡岡原村へ帰省していたころ、熊本駅を過ぎて八代駅に着く前辺りまで、左手の車窓に平野と山麓の境が一直線になっている風景が見えてくる。この直線状の地形は「リニアメント」と称し恐ろしい活断層であることは後になって知った。
この断層は布田川日奈久(ふたがわひなぐ)断層というが、布田川断層帯とは、阿蘇外輪山の西側から宇土や島原半島に至る活断層帯である。日奈久断層帯というのは、宇土半島の根本から八代海南部に至る活断層帯である。この断層帯に関わる地震が2016年(平成28年)4月の熊本地震である。この地震は、これまでの布田川日奈久断層帯が別府―島原地溝帯と共動した最大級の地震となり、天下の熊本城の楼閣や石垣が崩落し無残な姿となった。地震による直接死者は50人、現在までの関連死者は225人となっている。
この断層帯が拡大すれば50万年後には地溝帯となり内海ができて、九州は二つの島になる。内海に橋がかかることになり、多分、その橋の名は「九州地溝帯橋」、ふるさとへ向かう橋、50万年後の姿である。
数十万年後は仮想の世界であるが、幻想ではなさそうな地殻変動が現在でも起きている。今世紀に入ってから熊本地方の活断層帯を震源とするマグニチュード5~7.3の地震が6回も発生しており、最大のものが2016年(平成28年)の熊本地震である。マグニチュード6.5、震度7~7.3の地震が連続して起きた。
ところで先の地溝帯とはどのようなものなのだろうか。それは簡単にいうと、地殻が引き裂かれて溝のようになった割れ目である。この地溝がどうして出来るのか、そのためには日本列島とプレートの関わりを知っておく必要がある。
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| 図1. 日本列島周りのプレート | 図2. 九州の地殻変動(1997~2016年) |
ところで、プレートとは地球の表面下を覆う、厚さ数十キロメートルの岩石層のことであり、この層は幾つかのブロックに分かれていて、年間に数センチメートルずつ移動している。 そのプレートの境界で海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込み、歪が蓄積したプレートが跳ね上がると地震が発生する。したがって、跳ね上がるときの摩擦力(摩擦係数)がゼロであれば地震は起きない。しかしである。摩擦力や摩擦係数が極大、つまり界面が接合しているような場合でも地震は起きない。なぜなら跳ね上がりやすべりが生じないからである。ただし、歪やエネルギーは蓄積されるので、接合界面が破断したときに、一気にプレートは変位し巨大地震となる。
プレートは岩体、個体であるから、その接触界面の摩擦力や摩擦係数が軽減することはあってもゼロになることはない。軽減した場合の地震はスロー地震(プレート境界の断層がゆっくり動く地震)となる。摩擦係数というのは、摩擦力を垂直抗力で割った値のことである。例えば、荷重100のものが100の力で動いたとすると、そのときの摩擦係数は1である。50の力で動いたとすると摩擦係数は0.5、すべり面に潤滑剤があれば摩擦係数はゼロに近い値になる。プレート界面の摩擦力や摩擦係数が軽減する場合については、東北大大学海洋研究開発機構の研究によって次のようなことが分っている。
①滑石層の深度とスロー地震活動域は関連している、
②さらに界面に水分ないしは含水鉱物が介在する場合は軽減する、
③プレートが滑石や方解石および雲母など劈開性(へきかいせい)鉱物組成である場合、
④有機炭素など海洋底堆積物が多い西南海域の場合、それぞれ接触界面の固定力は軽減する。
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| 図3. 別府―島原地溝帯(九州内海) | 図3-1. 九州二島(出典:巽 好幸) |
図3は別府―島原地溝帯が内海となった想定である。図は列島がそのままで、数十万年後の別府―島原地溝帯やその西端が雲仙地溝帯とつながり九州内海となったときの想定図である。九重山も阿蘇火口も熊本市も地溝帯に没し、有明海や天草灘が伊予灘や豊後水道とつながっている。50万年後であれば海峡幅は約5キロメートルとなる。この海峡、この地溝帯にかかる橋が「九州地溝帯橋」であるが、瀬戸大橋のような姿形になるのか、山の吊り橋のようなのか、幻想は多彩になる。
九州分裂のもう一つの要因は、九州北西部の地下深くにあるマントルの上昇にあると神戸大学の海洋底探査センターの巽 好幸(たつみよしゆき)教授は指摘されている。つまり、五島列島など九州北西部で約800万年前から始まっている福江火山群などの活動は深海底の広大な溶岩台地にあり、そこからのマントル上昇に起因する。発生する地震はフリピン海プレートの沈み込みによるものであるから上昇流はやがて冷やされてフリピン海プレートを押し引き延ばし、地溝帯を拡大するというものである。
日本列島が引き裂かれつつあるのは2011年(平成23年)の宮城県沖地震でも顕著であった。海上保安庁によると震源近くの海底では24メートルの動きが東方向にあったとのことである。東方向にずれたということは、プレートが東方向に跳ね戻った証でもある。また、東北地方におけるユーラシアプレートの歪が蓄積し、東北地方を一気に東へ押しているとも考えられる挙動である。この変位が拡大していけば数十万年後、東北地方は二分されて津軽海峡のように日本海と太平洋を結ぶ海峡、東北地溝帯(東北内海)ができることになる。ここにかかる橋は「東北地溝帯橋」と呼ばれることになるだろうが本稿での詳述は控える。
筆者は、以前におよそ百万年前、人吉球磨盆地は湖であったことを紹介した(ふるさと関西会、ヨケマン談義1.百万年前の人吉球磨湖)。これは、球磨地方で長らく教鞭をとられた原田正史先生が、球磨総合運動場に露出している古代人吉層や湖底層の化石からこの地方が湖だったことを明らかにされたので、それを紹介したものである。人吉球磨地方の地殻変動に関連して、その頃のヨケマン談義では「ヨケマン談義7-8.人吉球磨地震の可能性」や「ヨケマン談義7-9.不知火海の海丘」を紹介し、目覚めるかも知れないマグマや地殻変動について言及した。寄稿以来10年程経ったが、球磨地方の地震や地殻変動は鎮まっている気配はなく、改めて紹介内容に付言することにした。
先に紹介したように、人吉球磨盆地北方には布田川日奈久断層帯、別府―島原地溝帯が存在し、人吉球磨盆地にも活断層帯が知られている。それらは図4であるが、この他に、盆地北側には新深田断層など幾つかの断層がある(ヨケマン談義7-8)。人吉盆地南縁断層による単独地震の可能性は低いと考えられるが、布田川日奈久断層や別府島原地溝帯の地殻変動に誘発されて起こる地震の可能性は、マグニチュード7~8の地震規模となり、その発生確率は30年以内では0~16%とする産総研(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)の報告もある。しかし実際に起きている地震はどうなのかを調べてみると図5のようなデータがあった。この図は2008年~2026年おける人吉球磨地方を震源とする地震である(出典:Yahoo天気災害)。熊本の大きな地震は2016年の4月14日と16日であるが、同年の球磨地方を震源とする地震は10月末と11月初旬の2回だけであり、発生日数までの差があるので球磨地方地震との関連はなさそうである。しかし、これらの地震は球磨盆地のどのあたりで起きたかを調べると日奈久断層に関連していることが分った。
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| 図4. 日奈久断層(布田川日奈久断層)と人吉盆地南縁断層 | |
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| 図5. 人吉球磨地方を震源とする地震 |
Yahoo天気災害サイトでは地震のおおよその発生場所がわかるので、30箇所の震源地を熊本県地図にプロットしてみた。
それが図6である。盆地南縁断層近傍に1か所の震源があるが、ほとんどが盆地北縁山体、球磨川右岸の山体である。
このことは、人吉球磨地方の地震は盆地南縁断層の活動によるものではなく、盆地北縁の新深田断層や高原-朝ノ迫断層等の活断層が
日奈久断層帯の活動によって誘発されているためと考えられる。
マグマが目覚めそうな不気味な様相や前兆が近傍にはまだある。顕著なのが前述の別府島原地溝帯である。この南西端の八代海には、ヨケマン談義7-9.不知火海の海丘で紹介したように不知火海の謎、海丘群が存在する。
この海丘成因については諸説あるが、どうみてもマグマの吐息ある。
鹿児島県桜島沖の錦江湾海底では、今も熱水やガス噴出現象がみられる。現在では海底墳丘は形成されていないが、フランス・コルシカ島沖のミステリーサークルの生成因は地下マグマによる熱水ガス噴出によるものと考えられている。また八代海の海丘などの成因を考えると、人吉球磨盆地近傍の事象はいつか目覚めるマグマの寝息のように思えてならない。